海外に行くことを家族に相談すると、じいちゃん以外はみんな賛成してくれた。
じいちゃんは相変わらず安定を求めるから、とりあえず大学を卒業した方がいいんじゃないか?と言ってくれたけど、「1年休学して、ダメだったら大学に戻る」と決めたら納得してくれた。
当時は香川真司の他にも本田、岡崎、長谷部ら日本人選手が海外で活躍し始めた時期でもあり、実はメディアに取り上げられない無名の日本人サッカー選手たちも数多く世界各国の下部リーグで挑戦をしていた。
そして選手と現地チームを繋ぐエージェントも各国に存在しており、日本で全く実績のない僕の受け入れ先となるチームも意外とすんなり見つかった。香川真司が活躍していたのはドイツの1部リーグ。僕が行くのはドイツの5部リーグだ。
大学のサッカー部にドイツ行きを伝えると、冷ややかな反応。お前じゃ無理だろうと思われているのがよくわかる。でもそんなものはもう関係ない。ドイツに行くんだ。不自由な環境に別れを告げ、新天地での活躍に100%の希望を抱く!!
と言いたいところだが、実は海外旅行にすら行ったことがない。
いや、そもそも飛行機にすら乗ったことがない。不安100%。英語も喋れないのにドイツ語なんてどうすればいいんだろう。入国審査で何か聞かれたらどうしよう。飛行機が墜落したらどうしよう。いや、そもそも日本の大学で通用しなかった人間がドイツでサッカーなんて…
寝不足で迎えた出発の日。見送りの家族と共に空港まで行き、出国前に最後の日本食を食べようと飲食店に入る。豪華な御膳が目の前に運ばれてきたが…あれ…食べれない。お腹は空いてるのに、不安で食事が一口も喉を通らない。(この時、機内でChicken or Beef ? と聞かれたら何と答えるべきかをずっと考えていた)
大丈夫?と聞いてくる母親に対してひきつった笑顔と震える声で「だ、だだ…大丈夫だから」と言う息子を目の当たりにして、両親は見たことないぐらい心配そうな顔をしていた。
そして不安が1mmも解消されないままフライトの時間が近づき、手荷物検査場へと向かう。家族の不安な視線を背中にグサグサ感じていたが、どんな表情で後ろを振り向いてもさらに心配させてしまいそうだったから、前を向いたまま手荷物検査場に入っていった。
人の流れに流されながら搭乗し、あっという間に飛行機は離陸。上昇する機体とシンクロするように少し心がワクワクしてきた。
シートベルト着用サインが消え、CAさんがカートを押しながら近づいてくる。大丈夫、もう決まってる。チキン、チキンを頼む。チキンプリーズ、チキンプリーズ、チキンプリーズ…
自分の番が来た。
「Would you like something to drink?」
「チk……え!?」
「Drink?」
(ドゥリン…?えっ、チキン…あ、ドリンク!?え…えぇー)
「We have a Coffee, Milk, Oragnge Juice…」
(あっ、オ、オレンジジュース、英語っぽく…)
「… オゥレンジュー」
「What !?」
冒険が始まった。
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